タイと私と仏教と ~タイのお寺・神社・博物館から~

タイのお寺を通して広くタイ人の信仰を研究中

〖バンコク国立博物館②〗“王室御車倉庫”から“国王の火葬殿”へ

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バンコク国立博物館と王宮前広場 バンコク

サワディーカー。

@yayoiです。

  

バンコク国立博物館の中にある

“王室御車倉庫”には王室の葬儀に

実際に使用される御車や棺などが

保管かつ展示されています。

前回の記事ではそれらの一部の展示品や

博物館の概要について書きました。

thai-yayoi-buddhism.hateblo.jp

 

今回の記事では火葬殿とは何か、

また火葬殿の当日は

どのような流れになるのか

火葬の前までを、

前回の記事で取り上げていない

博物館の残りの展示物で

説明しながら、私が過去2回

見学した火葬殿についても

書いてみたいと思います。

 

博物館の地図を利用して私が作った

王室御車倉庫内の展示品の一覧図です。

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火葬殿と火葬檀とは...?

  

火葬殿とは、タイ語でメーン(เมรุ)といわれ、

文字で書くとメールですが、読み方は

メーンです。

王室のものは接頭語のプラをつけて、

プラメーン(พระเมรุ) または

プラメーンマート(พระเมรุมาศ)(高貴な方の火葬殿

という意味)と呼びます。

メーン、プラメーンとは

ヒンドゥー教や仏教の世界観を表す

“ 須弥山(しゅみせん)” のことです。

 

王様は神様の生まれかわりだから、

ご逝去したら須弥山の天界へとお帰りになる

として、火葬殿は須弥山に例えて

造られるのです。

つまり葬儀とは天界に帰ることなので、

その栄光を最高の形で表す…

そこで必要なものとして、たくさんのものを準備します。

例えば、御車、輿、御座船などの乗り物から、

火葬殿、火葬檀、サンダルウッドの棺、

香木、ヒマパーンの森の動物などがあります。

  

博物館に展示されているプラメーンマートの模型(⑨)

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これは、もとは1925年のKingRamaⅥの火葬のために

KingRamaⅣのご子息である

ナリサラー・ヌワッティウォン王子が設計し、

海軍将校であるソンポップ・ピロム氏が

作った模型です。

モンドップといわれる仏堂の形のデザインで

屋根飾りなども施されています。

3つの部分に分かれていて、各々には四隅に

天蓋が設置されています。

また先端には四面のブラフマーが施されています。

 

白色の天蓋(かさ)(⑫)

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白い布で作った傘の形の天蓋の

各々の層は三重の布に金のふちが付き、

1番下は貝の留め金もついています。

この様な天蓋はいろいろな儀式の際に、

高貴な方のために吊るしたり立てて使用するもので

火葬殿にも使われます。

この天蓋は、

シーナカリン王太后の火葬殿に使われた後は

修復され、ガラヤニ王女の葬儀の際にも

使われました。

 

四面のブラフマー(⑬)

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火葬檀

 

火葬檀とは、火葬殿の中心に設置する

火葬台で、ここに棺を置きます。

下の四角の部分に土を入れ、薪をいれるようです。

火葬殿に燃え移らない様に神々が施された防火衝立が

取り囲む形状になっているそうです。

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ぺチャラッタナラーチャスダー王女の火葬檀(⑩)

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KingRamaⅥの王女の火葬檀です。

天蓋がほどこされた火葬檀は

王女の生まれ日にあわせて色はピンクです。

 

実際の火葬殿はこの記事の最後の方に

あります。

 

ヒマパーンの森の動物 

須弥山は、タイ語ではヒマパーン(หืมพานต์)とも

呼ばれます。ヒマとは雪で、ヒマラヤのことを

表しているのですが、

ここには神話上の動物(生物)がたくさん

暮らしていると言われています。

この動物たちが火葬殿を飾るのはアユタヤ時代からの

伝統だそうです。

 

ヒマパーンの森の動物(⑪)

ガラヤニ王女の火葬殿で使われた

動物が展示されています。

向かって左から、

アプサラシハ、タンティマ―、キンナリーです。

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火葬殿にはどのようにお運びするのか…?

 

王室の火葬までの流れは博物館の案内板によると

バンコク時代の初期とその後では

プロセスが若干変わったそうです。

現在のプロセスを

簡単に説明しようと思います。

 

<プロセス 1  座棺と棺> 

国王や王族のかたが亡くなった場合、

ご遺体は座棺に、胎児のような形でおさめられ、

王宮内のドゥシット・マハープラサート内に

何か月もの間、安置されます。

 

KingRamaⅨの座棺と棺(⑮)

2016年にご逝去されたKingRamaⅨの座棺と棺です。

下はお身体を寝かせた状態で安置するもの、

上は座棺で構成されています。

座棺は外側のいわゆる座棺カバーと

内側の座棺の2層構造になっていて、

ここに展示されているのは外側部分です。

サンダルウッドで作られています。

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<プロセス 2  輿(こし)>

火葬の当日は、この座棺を輿にのせて

まずワット・ポーに運びます。

60人の男性が肩にのせて運びます。

 

王家の輿(⑭)

棺が倒れないように両手で支える役割の人のために

前後には踏み台のようなものがあります。

また担ぎ棒の部分は丸形で赤く、先端は

金でできたつぼみの形状をしています。

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初めてこのような輿が作られたのは

アユタヤ時代かトンブリー時代での

ことだそうです。

博物館には図解されたものがあります。

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ガルーダや合掌する天人なども施されています。

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<プロセス 3  王室御車>

ワット・ポーで輿から王室御車に移して、

王宮前広場まで運びます。

到着後、棺は再び輿に移され、

設置された火葬殿のまわりを

反時計回りに三周します。

 

王室御車プラマハーピチャイ(⑰)

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KingRamaⅠがお父様の葬儀のために

作られたものです。葬儀は1796年に行われました。

その後も、王や王族のために使われてきました。

木製に金箔を施し、色ガラスで

装飾されています。

13.7tの重さがあり、引くのに216人必要です。

 

無数のナーガ(ヘビの神様)と

その間には合掌する天人が装飾されています。

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<プロセス 4 手動式エレベーター>

火葬殿の周りを三周した後、

手動式エレベーターで火葬檀に

上げて、火葬の準備をします。

この上げ下げする手動式エレベーターは、

ワット・ポーで輿から御車に移すときにも

使われています。

 

ナーガがあしらわれた手動式リフト(⑯)

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KingRamaⅠの火葬の際、

クロムルアン・ピタクモントリ―王子によって

設計され、その後、再設計されたものです。

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こうして、座棺を火葬殿にお運びし、

火葬の儀を待ちます。

 

 

王宮前広場に設置された火葬殿は…?

KingRamaⅨの火葬殿とは…?

 

実は、私はKingRamaⅨをとても尊敬しています。

それでご逝去された時は本当に残念でした。

火葬殿はご逝去された翌年の

2017年10月に行われました。

2017年の終わりから

再びバンコクに住むことになり、引越して行った時に

火葬殿の一般公開がたまたま延長になり、

運よく間に合い拝見することができました。

 

今にも雨が降りそうな空模様でしたが

大勢の方々が訪れていました。

待合所をでてまず目に入った光景です。

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KingRamaⅨの火葬殿はとても規模が大きく

説明の案内板もあり、わかりやすかったです。

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火葬殿は写真だと一見平面的に見えます。

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でも須弥山に例えて造られたものなので、

実は立体的です。

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須弥山であるPrincipal Pavillion(บุษบกประธาน)

主要殿を中心に、

四方にMonk’s Chanting Pavillion(ซ่าง)

僧侶の読経のための高座があります。

そのさらに四方にDismantling Pavillion (หอเปลิ้อง)

座棺などを収納するための建物があります。

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メインになる主要殿では、

中央の階段にはナーガ(ヘビの神様)が

あしらわれています。

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階段の左右にはそれぞれに

天人がいてガルーダの柱があります。

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ガルーダ(東、西、北側)や

ガネーシャ(南側)もいます。

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また主要殿の東側と南側には

リフトが設置されています。

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リフトの先にある扉のように見えるものは

火よけ(防火衝立)です。

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東西南北に火葬殿の方を向いて

四天王が立っているのが見えます。

下の図、それぞれ、①と②の間、

③と④の間、⑤と⑥の間、⑦と⑧の間に

立っています。

下の図では、写真を撮った

だいたいの位置に番号をふっています。

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西と北の間には

ท้าวเวสสุวนรรณ(ターウウエースウォン)

バラモンではท้าวกุเวร(ターウクウェーン))

(①) 

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 (②)

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北と東の間には

ท้าวธตรฐ (ターウタタロット)

 (③)

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  (④)

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東と南の間には

ท้าววิรุฬหก (ターウウィルンホック)

(⑤)

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  (⑥)

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南と西の間には

ท้าววิรูปักษ์ (ターウウィル―パック)

 (⑦) 

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(⑧)

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四天王については以前こちらの

ブログで書いています。

thai-yayoi-buddhism.hateblo.jp

 

主要殿の前には階段の両脇に1頭ずつ

あわせて2頭の、各方角で別の動物がいます。

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北側に象。

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東側にはライオン。

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南側に牛。

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西側には馬。

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そして、お堀の様に火葬殿を囲む池があり、

東西南北それぞれ、ヒマパンの森の動物や

天界の生物がいます。

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最後にKingRamaⅨの愛犬であった

ジョーチョー(โจโฉ 左)と

トーンデーン(ทองแดง 右)です。

ここでこんな形で国民とともに

別れを告げているようです。

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ペッチャラッタナラーチャスダー王女の火葬殿とは...?

次は、2012年4月に行われた

KingRamaⅣの王女

ペッチャラッタナラーチャスダー王女の

火葬殿です。

火葬檀は博物館に展示品されています。 

 

この当時、私はシンガポールからソウルへと

引越して行ったばかりでホテル滞在していました。

まだ肌寒いソウルがつらく、バンコクに旅行に

行きました。その際に

たまたま友人とみることができた火葬殿です。

 

残っていた写真だけではどなたの火葬殿か

わからなかったのですが

一緒に行った友人にきいてみたところ、

ペッチャラッタナラーチャスダー王女の

火葬殿だとわかりました。

すごく晴れた日でした。

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細部に女性のための美しさが施されている

気がします。

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別の角度から撮りました。f:id:at_yayoi:20200527134215j:plain

 

ここに先ほどの博物館の展示品の

火葬檀が設置されていたと思われます。

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逆の角度から撮りました。

リフトと火よけです。

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下の方にヒマパンの森の動物の池が

少し見えます。

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囲んでいる建物もピンクでした。

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前回と今回、二つの記事は、

博物館や火葬殿に設置されていた

案内板や下記の書籍を参考にして

書いてみました。

 

参考資料

『週刊世界の博物館 バンコク国立博物館

 (朝日新聞出版)

バンコク国立博物館の至宝』

『王宮 エメラルド寺院』(リバー・ブックス社) 

『タイ文化ハンドブック』

 

最後におまけの1枚は、国立博物館に戻って

バンコク国立博物館の不思議??

幻のサーラ―です。

 

以前、受付にあった古いパンフレットの

11番のところ(赤〇をつけた部分)には

下の写真のサーラ―がありましたが、

パンフレットには11番だけ表記がありません。

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そして...

このサーラー自体がもう博物館には

ないみたいです...(2009年6月撮影)

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お読みいただきありがとうございました。

@yayoi